四六判上製288頁
定価:2700円+税
ISBN:978-4-910904-03-0 C0010
装幀:須山悠里
刊行日:2025年9月25日

生類の思想 体液をめぐって
藤原辰史

大気・海洋・土壌汚染、アレルギーの増加、免疫の不調、日常化する暴力、子どもの商品化、奪われる睡眠時間……。この世界の現実をどう捉えるか。
「人間」と「環境」を根源から定義しなおし、ありえたかもしれないもうひとつの世界を描きだす。
世界の高速回転化と自己攻撃化にあらがう、驚くべき思考の集成。

■著者からのメッセージ

人びとを「生き生きとさせないもの」とはなにか——。とくに、この列島を生きる子どもたちをみていると、そんな残酷な問いが頭から離れなくなります。子どもたちを元気づける歌をうたったり、笑わせたりすることが緊急の課題なのかもしれませんが、そんな芸当はもちろん私にはできません。ですからせめて、「生き生きとしている」とはどういうことなのか、それを邪魔しているものはなんなのか、という問いにとことんつきあってみました。本を読んだり、旅をしたり、目をつぶったりしながら考えていると、どうやらこの社会には、「もれる」や「たかる」が足りないのではないか、と思うようになりました。その考えにいたった経緯をこの本にまとめてみましたので、手に取っていただければ幸いです。

藤原辰史 

著者について

藤原辰史(ふじはら・たつし)
1976年生まれ。京都大学人文科学研究所教授。専門は農業史、環境史。
著書に『ナチス・ドイツの有機農業』(2005年、柏書房、第1回日本ドイツ学会奨励賞)、『カブラの冬』(2011年、人文書院)、『ナチスのキッチン』(2012年、水声社、のち決定版:2016年、共和国、第1回河合隼雄学芸賞)、『稲の大東亜共栄圏』(2012年、吉川弘文館)、『食べること考えること』(2014年、共和国)、『トラクターの世界史』(2017年、中公新書)、『戦争と農業』(2017年、集英社インターナショナル新書)、『給食の歴史』(2018年、岩波新書、第10回辻静雄食文化賞)、『食べるとはどういうことか』(2019年、農山漁村文化協会)、『分解の哲学』(2019年、青土社、第41回サントリー学芸賞)、『縁食論』(2020年、ミシマ社)、『農の原理の史的研究』(2021年、創元社)、『歴史の屑拾い』(2022年、講談社)、『植物考』(2022年、生きのびるブックス)、『食権力の現代史』(2025年、人文書院)などがある。

目次


はしがき

 わずらう
体液をめぐる思考——生類の思想が編み直されるところ
慢性と急性——人文学的省察
「自己する」の不調——アレルギー時代の人文学的考察

 あそぶ
家庭科の哲学——「人間する」を遊ぶ
墨色と泥色の記憶——かこさとしの絵の淡い濁りについて
子どもの商品化に抗する思想
いま環境について考えるとはどういうことか

 はぐくむ
農業技術への問い——ハイデガーの概念「はぐくむ hegen」について
土の思想をめぐる考察——脱農本主義的なエコロジーのために
さつまいもと帝国日本
賢治と道子をつなぐもの——「植物医師」と硫安

 たべる
培養肉についての考察
食の闇について
人間チューブ論——食のダイナミズムを考える
エディブル・プラネット

 まじる
「規則正しいレイプ」と地球の危機
表皮の脱領域的考察
もれる——膜が食い破られること
「たかり」の思想——食と性の分解論

あとがき
初出一覧
人名索引